『浅田家』の作者・写真家 浅田政志さんインタビュー「僕が写真入り年賀状を出す理由」

写真集『浅田家』で第34回木村伊兵衛写真賞を受賞し、映画「浅田家!」の原案にもなっている写真家の浅田政志さん。子どものころから写真入り年賀状を送ることが毎年の恒例だったという浅田さんに、「写真入り年賀状」を送ることの魅力や楽しさを語っていただきました。
「僕の写真人生は、年賀状から始まった」
――浅田家の年賀状にまつわる思い出を教えてください。
僕が1歳前後から高校を卒業するまで、喪中以外はほぼ毎年、写真入り年賀状を送っていました。当時はまだ写真入り年賀状はめずらしかったですね。七五三など家族全員で撮ってもらった写真を使うこともありましたが、年賀状の写真は父が撮る“お兄ちゃんと僕”が基本形でした。
撮影は父が希望する市内のスポットでした。堤防に昇る朝日を狙って早朝から撮影したこともあります。1回の撮影でフィルム1本分、36枚くらい撮るんですよ。父は普段から写真を撮るわけではないのでマニュアルカメラも使い慣れていなくて、半日くらいかけて撮影していました。
小学生のころはそういうものだと思ってたんですけど、中学生や高校生になると、やっぱりちょっと撮られるのが恥ずかしくなってきたり、友だちと遊びたかったり。最後のほうは自宅前や近所でかんたんに撮るようになっていたから、相当嫌がっていましたよね(笑)。
――それでも途中でやめようということにはならなかったんですね。
そうですね。うちは家族の決まりごとが2つだけあって、1つは朝食と夕食を毎日家族みんなで食べること、もう1つが写真入り年賀状だったんです。写真入り年賀状は兄が「ちゃんとやろうか」という感じで、僕は「しかたないな」とつきあっていたような気がしますけど、毎年やっているとそれが約束事みたいになってくるというか。僕の写真人生は、父が撮っていた年賀状の写真から始まっているんです。
いま写真入り年賀状を送りたい理由とは?
――デジタル全盛のいま、あえて写真入り年賀状を送ることにどんな価値を感じますか。
写真入り年賀状を送るには、撮影して、プリントして、住所を書いて、ポストへ投函……と手間もお金もかかります。でもその手間があるからこそ、もらった人が喜ぶのだと思います。そこには愛情のような何かがこもるんですよね。魔法が、かかるわけです。だから捨てられなくて、もらった年賀状はずっとためていますね。
たしかにメールやSNSならもっと気軽に送れますが、どんどん便利にラクをしようとすると、やっぱり何かがこぼれおちていくんじゃないかなと思います。僕は、年に1回大切な人とつながったり、ありのままの家族の姿を親しい人に伝えたり、そういうアナログ的な良さが好きなので、毎年写真入り年賀状を送っています。
――年賀状に“写真”を添えることの魅力はどんなところにあると思いますか。
この仕事をやっているからだと思いますけど、文字だけの年賀状より写真があるとうれしいですね。なかなか会えない学生時代の友人からの写真入り年賀状は、近況報告の手紙をもらうようなイメージ。写真があると、文章だけで伝えきれないもの、たとえば子どもの姿そのものを見られるのがうれしいですね。
古い話なのですが、ヨーロッパでアルバムが登場したころ、仲の良い家族がお互いの家族写真を交換していたらしいんです。トレーディングカードみたいに。いい習慣だなあと思います。
日本にも七五三や成人式に写真を撮ったり、人が亡くなったら遺影を飾ったり、写真を使った独自の習慣がありますよね。年賀状の写真もそうなってもいいと思うんですよ。「日本ではなぜか多くの家庭が、年に1回気合いを入れて写真を撮り、送りあう習慣があるらしい」って海外でいわれるような。究極はそういうことになるとすてきだなって思っているんです。

もらってうれしい写真入り年賀状をつくるコツ
――届いたらうれしくなるような写真入り年賀状をつくるコツを教えてください。
もらってうれしいと思われるかは、相手のことを考えられているかどうかだと思うんです。たとえば、家族の写真を使った年賀状をもらって「うーん」と思う人は、なにか家族の幸せを押し売りされているように感じているのかもしれない。
だから、送る相手がどうやったら喜んでくれるかを考えながらつくるといいと思うんです。たとえば写真撮影も「写真館のようなオールドスタイルで撮ったらおもしろいと思ってくれるかな」とか、「なにかおめでたいモチーフを入れたらいいかな」とか。もちろん、家族じゃなくて1人でやりきってもいいと思います。
――浅田さんがもらってうれしいと感じる写真入り年賀状はありますか。
個人だけでなく、会社からの年賀状もうれしいですね。クリエイティブなデザインを見るのも楽しいし、やっぱりメールだけで終わらせないで関係性を大切にする姿勢が見えるので。「また何かお仕事をご一緒できたらいいな」と思っちゃいますね。

年賀状づくりは家族写真撮影のチャンス
――写真入り年賀状をやめてしまう理由として、「子どもの成長につれて写真を撮る機会が減ってしまったから」という声をよく聞きます。
20代から作品として家族写真を撮るなかで、どんどんその魅力を感じているのですが、周りを見ると「あらたまって家族写真を撮っていない」という人や「スマホで撮るくらいでプリントはしない」という人が意外に多いんですよね。僕はせっかくなら家族写真を年に1回くらい撮って、プリントしてほしいなと思っているんです。
お子さんが思春期になっても、そこで家族写真を撮るのをやめずに、「あんたも参加しなさいよー」「えー、やるの~??」みたいな感じでも続けていくとよいのかなと。お子さんに嫌がられてもすぐ諦めないでねばる。「じゃあ後ろ姿ならいいの?」「小さく写すならいい?」と妥協点をみつけたり、「夕飯は焼き肉にするから!」ってお願いしてみるとかね。
子どもは「なんで無理やり……」と感じるかもしれないんですけど、それはそれでいい思い出にもなると思うし、お子さんが大人になって毎年恒例で続けてきたことの良さに気づくことも多いと思うんです。
僕も20歳のころ、初めて家族写真を撮ったときは恥ずかしかったんですよ。でも作品にして多くの人に「いいね」といってもらえたら、逆にどんどん見せたくなった。僕みたいに食わず嫌いなだけで1回撮ってみたら世界が変わる人は多いと思いますよ。
そもそも「写真を他人に送る」ということは、家族や自分が好きじゃないとできないですよね。たとえば、お父さんが「年賀状の写真を撮りたい」と言い出して、子どもや奥さんは嫌々撮られているようだとしても、父親が家族を思う気持ちや愛情が家族に伝わるし、家族の連帯感も増すと思います。
日本って意外と家族を隠す傾向がありますが、もっと「自分の家族はこうなんだよ」と見せてもいいんじゃないかと思っています。写真入り年賀状ならそれがサラッとできますよね。
――ただ、どうやって撮ればいいかわからなかったり、忙しいと面倒になってしまったりすることもありますよね。
写真の数はそんなに多くなくても、1年に1枚くらい“超いい写真”があれば、見返す良さもあるし、家族の成長の過程もしっかり残せると思います。だから、家族写真の撮影と年賀状を合体させるのはすごくいい手だなと思っていて。
年賀状なら毎年1枚撮らなきゃいけないし、人に見せる写真は結構気合いを入れて撮るから、ちょっと家族行事っぽくなる。送る人に喜んでもらうために「どうしようか」とか家族会議をすれば、家族のクリエイティブ性も増します。写真はプリントするハードルも高いですが、年賀状だと同時に紙になるのでプリントも兼ねられて、一石二鳥にも三鳥にもなります。
撮影はタイミングを逃さないように、お正月やお盆に集まったら撮るとか、結婚記念日に撮るとか、決めておいて恒例化するのがよいと思います。
あとは家族ごとにその家族ならではの撮り方もあるはずなんですよね。旅行好きなら毎年旅先で撮ってもいいし、登山好きなら山頂で撮るのもいい。服好きなら年1回みんなで好きな服を買って撮るとか。撮影を家族の喜びにつなげると、年賀状の写真をもっと楽しめると思います。

見返す楽しみも!写真入り年賀状を家族史に
――自分でつくった年賀状はどうしていますか。
送り先の住所が変わったりして戻ってくる年賀状が何枚かはあるので、それを母がハガキケースに入れて保管しています。ケースは安物のビニールケースなんですけど、いまは宝物のように感じますね。
――歴代の年賀状をまとめれば、すてきな家族史になりますよね。見返すことはありますか。
僕の場合、こういうインタビューのときに見返すことも多いんですけど、ふつうはおそらく一生に数回だと思います。何気なく見るのは1回くらいで、あとは結婚とか誰かが亡くなったとか、人生の大きな節目のとき。
成人したころに見返すと、懐かしさが第一で、「こんな服着てたなあ」とか「おとん若いな」と感じます。それが20年くらい経つと自分が当時の親くらいの年齢になって、子どもが当時の自分くらいの年齢になる。父親の気持ちもよくわかって、懐かしいだけじゃすまなくなってきます。あとはまだ経験していないですけど、さらに20年くらい経って、父親が亡くなったり、自分が老いたりすると、また写真の意味合いがだいぶ変わるんだろうと思います。
写真はずっと変わらないけど、自分のそのときの立場によって写真のとらえ方が変わってくる。写真を見るということは、同時に「いまの自分を見る」ことでもあるんです。
いまは年に一度、浅田家9人で写真を撮り、その写真を年賀状にしています。年賀状と共に始まった僕の写真人生は、いまも続いているし、これからもずっと続けていきたいと思っています。
浅田政志
写真家、1979 年三重県生まれ。専門学校の課題をきっかけに自身を含めた家族写真をセルフタイマーで撮るようになる。
写真集『浅田家』(赤々舎)で2009年に第34回木村伊兵衛写真賞を受賞。2020年は『浅田家』、および『アルバムのチカラ』(赤々舎)を原案とした映画『浅田家!』が公開され、10年ぶりの作品集となる『浅田撮影局 まんねん』(青幻舎)と『浅田撮影局 せんねん』(赤々舎)を同時刊行した。
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